涅槃姫みどろ 厄の27(単行本4巻第参拾壱夜) 「真剣師

 大阪の将棋センターで東京からやってきたアマ王者を迎え撃つのは地元の有名人の達さん。
 不敵なツラ構えのこの老人は、飛車角落ちで東京のアマ王者を撃破します。
 その勝利を数手前に予想していたのが、われらがみどろさん。相変わらずのフリル過多のお嬢様スタイルです。
 そんなみどろさんに声をかけるのが一人の青年。彼は達さんの息子で、父親に憧れみずからもプロ棋士になったほどの腕前です。彼は、みどろさんを自宅に招待すると、将棋で接待しながらお願いを語ります。
 実は、達さんは、かつては賭け将棋の世界にいきる「真剣師」とよばれる裏プロの世界で伝説とまでいわれる人物でした。
 そんな父親の全盛期の姿をみたいがために、青年はプロ棋士の頂点にいる人物との非公式試合をセッティングします。往年の勝負勘を取り戻すべく、将棋に没頭する達さん。
 しかし、無情にも達さんは病魔におかされていたのでした。
 生きているのが不思議なくらいの状態で、日々腕を磨き続ける達さんをみて息子は、「試合が終わるまで親父の苦しみを取り除き、命を確実に持たせる事のできる薬を作ってください」とみどろさんに無茶なお願いをするのでした。
 「わたしは医者じゃないわ」とみどろさんはにべもなく断ります。
 しかし、青年もひきさがりません。
 「最後の真剣師の大勝負、みてみたいと思いませんか?」
 と挑発してみます。コレにはまるでコピーされたかのように無表情を通してきたみどろさんにも一瞬、気を惹かれたようです。
 そこで、青年は一気にたたみかける。
 「私も真剣師の息子!もし親父が負けたら私のこの命を文字通り差し上げます!」
 いいぞいいぞ、その目その汗そのふるえ・・・。命をはってしゃべっておるな、こいつ。そうみどろさんが感じたのかは解りませんが、
 厄いわね。待ったなしよ」 と承諾の意思表示?をします。
 「ありがとうございます」と深々と頭を垂れる青年をよそに勝手に将棋の手を進めるみどろさんがちょっとラブリー。

 
 一ヵ月後。
 伝説の真剣師達さんと現役プロの頂点である名人との対決の日をむかえます。
 持ち時間制限なしという厳しい条件のなか、文字通り死力を尽くす二人だが、達さんはどこか苦しそうだ。
 心配になった青年はみどろさんに薬の効果についてきくが、みどろさんは「薬の出来は文句なしよ」とそっけない。
そして、ついに達さんは対局中にせきこみ、吐血します。ついでに鼻血もでてます。これは脳に病巣ができてる可能性が高いです。
 「どうしました」と心配する名人に「構うな」と一言で制します。誇り高き真剣師の姿を目の当たりにした名人はただ、「わかりました」とだけいい試合は続行されます。
 対戦者には最大限のリスペクトを!このへんが名人の名人たる所以ではないかと思います。
 そして、達さんの鬼気迫る一手が盤面に刻まれる。
 そんな対局をよそに青年の心配は続き、実は達さんが薬を飲んでいなかったことに気付きます。
 みどろさんが用意した薬びんはてつかずのままで、その横に真剣師に情けは無用」というメッセージがそえられています。どうやら達さんは相当な覚悟で対局に臨んだようです。
 達さんを心配し飛び出す青年。そこに現れた名人は一言「惜しい人を亡くしました」とだけ告げて去っていきました。
 対局場では、達さんがいままさに桂馬をうたんとする姿で、大往生を遂げていました。
 慟哭する息子をよそに「真剣師の死に様、みせてもらったわ」
みどろさんがいいます。偉そうです。
 あしゅら執事が勝負の結末を知ろうとしますが、みどろさんはそれを制し、
「幸せそうな顔をしているわ。それでいいじゃない」と告げるのでした。



 今週の話は全く厄くありません。厄くありませんが、私はこういう勝負に命を賭ける男達の話というのは大好きです。
 ところで、青年の命がどうなったのか気になるのですが、みどろさんが、それでいいといったので、ノーゲームになったんでしょうか?
 これが阿佐田哲也先生の麻雀放浪記だったら、死んだ時点でみぐるみはがされて、道頓堀に放り投げられてたところですね。ま、まどぉ〜。(意味不明なギャグでスイマセン)

 ちなみに、私が「真剣師」と聞いて真っ先に思い出したのがこの本です。
 

真剣師小池重明 (幻冬舎アウトロー文庫)

真剣師小池重明 (幻冬舎アウトロー文庫)

 おもしろそうだなあ、と思っていたのですが結局買わずじまいでした。見つけたら今度かってみます。