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涅槃姫みどろ 厄の30(単行本4巻第参拾参夜) 「とどのつまり」
蒐めれど蒐めれどなお我が想い楽にならざり・・・。
「これはちがうなぁ。年代モノにはちがいないけど・・・。パチもんだよ。塗装もムラがあるし・・・。」
同じ怪獣ソフビコレクターの新井がいう。
「わっ。やっぱ僕と違ってトップコレクターのお二人は凄いっすね。ちょっとみただけですぐそこまで」
最近この道に入ったばかりの後輩が大袈裟にいう。
今日、僕らはコイツの見つけた「入滅堂」という名の古道具屋にやってきていた。こういう店にこそ掘り出し物があったりするのだが、今回ははずれらしい。それにしても、
「よくこんな変な品揃えの店みつけたな」
僕のつぶやきに新井は答える。
「店員も独特だ」
いくつぐらいだろうか?カウンターには美人だが長髪で顔半分がよくみえない女性が一心腐乱に商品の本の手入れをしている。
まあ、そんなことより新井の奴だ。
「ところで、新井さん何か進展は?」
「いやー。結局行きつく所まで行って、あとは入手困難アイテムの出現待ちですよ。高田さんも同じようなもんでしょう?」
やっぱりな。でもアノことをいうのはまだ早い。
「まあ・・・そうですね。」と答えると後輩のヤツがいう。
「高田さんも新井さんももう大抵のアイテムを持ってらっしゃるって事ですね。初心者の僕からしたらうらやましい限りですよ!」
それに対して新井が答える。
「でも、怪獣ソフビはお金でかえるものを集めた後こそ辛いんですよ。子供の頃、みんなボロボロにするから完品の残存個数が圧倒的に少なくて・・・。ね?高田さん」
よくぞ振ってくれました。僕は内心の喜びをおさえつつ、
「このタイミングだと、まあ、言わなきゃしょうがないですね・・・・・・。
実はつい先日、地方出張のついででちょっとしたヒットがありまして・・・。」
「お?」
二人とも食いついてきたな。
「それ以上はやくいわ」
えっ!やくい?店員のひとりごとかな?
「それより高田さん、また地方で?」新井がきいてきた。目の色が違う。
「そう、場所は言えないけどとある商店街で・・・」
僕は地方出張でいつもするように商店街のつぶれた玩具店を探しだし、デッドストックを見せたもらったこと。そして、店の中に怪獣ソフビメーカー「ブルサン」中期の商品が残っていたことを告げた。
驚く後輩。だが、新井は冷静だ。
「でも、中期でしょ。まぁ、よくある話ですよ」
「ええ、基本的には持っているブツばっかり。ところが、この話はそれだけじゃ終わらないんです。
オヤジさん曰く、別の場所に倉庫があってそこに怪獣ソフビが少し残ってると。で、特徴をしつこく聞いたら・・・。」
聞いて驚け!
「なんと!タニシゴン!」
「な、なんだって!!」
予想どおり驚く二人。
タニシゴン。それはブルサンものの中でも最も入手困難と言われる最初期のもののひとつ。しかも、倉庫にあったのはタグ付き袋入りの完品だ。
「明後日またいくんでそれまでに用意してもらう約束をしといたんです。」
そういうと後輩は羨望の目で僕を見つめ、新井は
「やられた・・・。差をつけられたな〜」と本気で悔しがっていた。
しかし、明後日、衝撃的な事実を店のオヤジに告げられる。
「え!?今朝来た客に全部売った!?」
話が違うじゃないか!
「そ、そんな僕と約束したはずですよ!」
そう店のオヤジにつめよると、オヤジは困惑げに
「いや、えらい勢いだったもんで。しかもその人びっくりするような金額をいきなりいってきて つい・・・」
そんな!
「すまないねぇ・・・。てっきりあんたの代理の人だと思って」
「え、どんな人でした?」
オヤジのいう男の特徴はまさに新井のものだった。
「新井!お前あそこにいっただろ!」
その後、すぐに新井の家におしかける。
予想通り、金にあかせて集めた怪獣ソフビのなかに僕の、僕のタニシゴンが!
「なんだこれは!?」
「これはちょっと前にオークションで入手したんだ」
「嘘つくな!」
苦しい言い訳にキレる俺。そして、俺の第六感が告げる。ヤツのコレクションケースのなかにみえるのは・・・。
「あーー!!」
まて、これはちょっと、この形成色は・・・幻のなかの幻とされる第一期の「ミドリムシ星人」!ほ、本物を初めてみた。
これは、第一期だけ尻尾が可動する・・・。おそるおそる尻尾に触れると、
「うわっ!動いた!第一期の完品じゃないか!」
新井がいう。
「そう折れやすい牙が一本も折れていない。奇跡的な極美品だよ。」
その言葉に俺の怒りは一気に頂点に達する。
「お前!あそこでこれも!」
おれの剣幕にたじろぐ新井。
「すまん。居ても立ってもいられなくて取り引き先のフリしてお前の会社に出張先をきいて店をさがしたんだ」
聞く耳もつか!
「俺に返せよ。二つとも!」
だが、ヤツは
「たしかにタニシゴンはお前が見つけたものだ!お前に返そう!だが!」
そういうとヤツは俺の手からミドリムシ星人をひったくる。
「このミドリムシ星人は俺のものだ!これは倉庫から出てきたんじゃない!お前が漁りつくしたハズの店の棚の裏で俺が見つけたんだ!」
なんだって!
「店のオヤジにきいてみろ!だからこれは俺ものだ!」
そんな馬鹿な!あの棚にミドリムシ星人が・・・。
「た、頼む!俺のコレクション全てとこのミドリムシ星人を交換してくれないか!」
俺の懇願に対して、ヤツは静かに首を横に振る。
「わかりきった事をきくなよ。
もし、もう一体みつける事があったら絶対にお前に回す」
新井は気休めをいう。
俺はただ、タニシゴンを握りしめ悔し涙を流すしかなかった。
目の前に俺のものになるはずだったミドリムシ星人があるというのに・・・。
その帰り道、俺は我知らず叫んでいた!
「欲しい!欲しい!欲しい!うう。こんなに辛い想いは初めてだ。どうすれば手に入るんだ!
そして俺は気付く。
「そうか!そういう事か!あいつが死ねばまたブツは流れる!とどのつまり、コレクターの究極の願望はライバルの死だ!
そういえば友達の知り合いにやたら強力な女呪術師がいると聞いたがそいつに・・・。
いや、そんなワケのわからんものに金など使えるか!
それぐらいなら自分で呪ってやる。今の俺の呪いは強力だぞお!」
右手を高々とあげ俺は叫ぶ。
「新井よ!ミドリムシ星人のために死んでくれ!死ねえええ!」
ふう、ちょっとすっきりしたな。今日はヤケ酒でものむか。
翌日、朝刊に目を通していると、ある記事が目に付いた。
IT社長心不全で急死
新井が急死しただと。記事には持病の発作で息をひきとったとある。ま、まさか。だが・・・。ちょっとまてよ!これは・・・。
「この度はご愁傷様です」
新井の葬儀に参列した僕は悲嘆に暮れる新井の母にお悔やみを述べてから、生前新井になにかがあったときにコレクションの一部を引き継ぐという約束をしていたことを告げた。
むろん、嘘八百だ。
しかし、新井の母は信用してくれ新井のコレクションルームに案内してくれる。
僕はコレクションを入念にチェックする。あった!ミドリムシ星人だ。
「あ、ありました、コレですね。」
ミドリムシ星人を手にいれれば用はない。僕は急いでその場を去った。
半年後。
久しぶりに後輩が訪ねてきた。新井が死んでからコイツもそれなりに収集していたらしい。
後輩は「何か凄いブツでも仕入れたんじゃないですか?」と突っ込んでくる。なかなか勘がいいじゃないか。
まあ、コイツには見せてもいいだろう。
僕はコレクションケースにかけていた布をはずす。
「ぎゃああああ!ミドリムシ星人。しかも極美品!!」
こいつもモノの価値がわかるようになってきたな。
「どうやったら、こんなに欲しいモノが集まるんですか?秘訣みたいなものがあれば教えてください!」
真剣に尋ねる後輩に僕はいう。
「欲しいと念じる事だよ・・・。とにかく絶対に欲しいと心から念じるんだ」
「なるほど、参考になります。心から念じるんですね・・・。心から 」
獲物を狙う狩猟者の目で後輩はつぶやいた。
その夜、僕は突然胸に苦し、みを覚・・・え・た・・・。
「お母様、この度はご愁傷様です」
霊前で遺族にお悔やみをいうのは、あの時来ていた3人の厄い客の一番若い人物。
彼は、ちらっと遺影をみると言い出した。
「生前の約束でもし自分に何かあったらコレクションを引き継いでくれと、たのまれてまして・・・。」
この茶番劇の一部始終を見ていた私の執事は「哀れな人たちなんですかね・・・?」
と問いかける。
ふふふ、そうでもなさそうよ。
「超合金魂ダンクーガが欲しい!」
心から念じてみました。手に入るでしょうか?
ちなみにプレ値だったら普通にオクに出てますが、定価以上は出す気はありません。
で、今週のみどろさん。いやあ、怖かったですねえ。恐ろしかったですねえ。
最初読んだときはそれほどでもなかったんですが、感想をかくために繰り返し繰り返し読んでるうちに、だんだん自分と高田がダブってきて、今回はこういう小説風の形式をとってみました。
そんなわけで、一部独自にアレンジを加えている部分があります。ご了承ください。
正直、休みが一日つぶれましたが個人的には書いてて楽しかったです。
最後に多分目にとまることはないでしょうが一言。
大西先生、中里先生、どうもすみませんでした!
あくまでファンのオアソビなんでご容赦ください。