涅槃姫みどろ   厄の49   「盆栽」
 

 「あらから約半世紀。駆け出しの盆栽家だった私も、今では少しは知られた存在になりました。」
 みどろさんにそういう老人こそ今回の依頼人
 老人はみどろさんに自分の最高傑作である盆栽「聡美」をみせ、この樹にまつわる恐ろしい因縁を語り始めます。
 若かりし頃、盆栽の道を極めんと日々修行していた彼を支えていたのは、妻である「聡美」の存在。
 しかしある日、偶然妻が別の盆栽家と逢い引きしている現場をみてしまいます。
 その夜、彼は妻を非難しついに離縁状をたたきつけます。
 聡美は黙って受け取った。
 本気で離縁したかったわけではなかった男はますます傷つきヤケ酒をあおり、気付けばうわさの入滅堂へやってきたのでした。
 半世紀前もいまと全く変わらないみどろさんに老人は懇願します。
 「妻を・・・私の憎き妻を、樹に変えてくれ!」
 「酔客は相手にしないわ」 
 とにべもないみどろさんに「私の妻は死んだんだ」と思いのたけを告げる男に、みどろさんは「厄いわ」と男に告げます。


 翌朝、男が家に帰ってみると一鉢の盆栽がそこにありました。果たして男の願いはかなったのでしょうか?
 男は樹になった妻を丹念に育てます。
 何年、何十年もの間、日々欠かさずに手入れしながら樹を理想の形に近づけていゆく盆栽道。
 理想の樹形に近づけるため、針金を樹にまきつけては長い年月をかけて育てます。
「はは、物言えぬ姿になってかわいそうにな・・・。お前を生かすも殺すも、私次第だ」
 最初は妻に対する憎しみを向けていた男だが次第に盆栽に妻の姿を見出すようになりました。
 「美しい・・・。今、聡美の横顔が見えたぞ・・・。そう、私がかつて愛していた・・・。」
 男は変わり果てた妻を愛するようになり、年を重ねるごとに魅力的になっていく「聡美」の魅力にとりつかれていったのです。
 そうして、名樹を育てている自負もあってか、盆栽家として成功を収めた男であったが、ある日、妻の逢い引き相手と出会います。
 そして、妻の浮気が全くの誤解であったことを知らされます。
 

 後悔にさいなまれた男はますます美しさを増していく「聡美」に恐れを抱くようになり、ある夜、月明かりに照らされた「聡美」の影に怨みとも悲しみともとれる妻の顔を見ます。
 それからというもの男は毎夜、盆栽の枝が針金のように男の体を縛り上げていくという悪夢をみるようになります。
 「年を重ねた樹には冷気が宿るといいます。そうこの樹は私を呪い殺すために成長していたのです!」
 追い詰められた男は再びみどろさんに懇願します。
 「もう限界だ。!頼むなんとかしてくれ」
 しかしみどろさんは、「してあげられることはないわ」と冷たく断ります。
 

 その夜、またもや悪夢で目覚めた男はついに「聡美」を処分する決意をします。
 灯油を持ち出し、「聡美」にかけようとして瞬間に男が目にしたのは若かりしころの妻の幻。
 思わずよろけた男は庭の池に落ちてしまい、そのままおぼれて帰らぬひととなります。

 
 ところかわって、介護士さんに車椅子を押してもらった上品な老女が登場します。
 彼女こそ、男の元妻である聡美、その人です。
 彼女は分かれた夫との思い出を介護士さんに語ります。
 「仕事に一途な人でね、愛していたけれどあの人の大成を信じて身を引いたのよ。最後に残しておいたあの松の盆栽は大事にしてもらってるかしらねぇ」


 男の残した盆栽「聡美」を前にしてみどろさんはつぶやきます。
 「ふふふ、人朽ちて名樹を残す・・・。見事な仕上がりよ」




 つまり土台を間違えると樹にエロスを感じてしまうとゆうのが今回の教訓ですね。(違います)
 全体的に昭和テイスト漂う感じで、個人的に好きな雰囲気なんであまりよけいなツッコミとかはいれないで書いてみました。
 だから、「みどろさんは50年前でもミニスカかよ!」とか、「回想もコピーかよ!」とか「実は池は浅いんじゃないの!」とか「そもそも書置きぐらい残しておけ」とかそういうツッコミはなしの方向で・・・。
 結局老人の空回りだったわけですが、昔から「人を呪わば穴二つ」と申します。
 怖いですねえ。くわばら。くわばら。